家族ってなんだろう(4)祖母の家

母は私を身ごもると、父より一足先に実家に帰った。

母の実家は、その頃は文京区にあった。
渋谷の松濤の家は、祖父亡き後、相続税が払えずに売却したそうで、ほんの50坪ほど残った土地は母の兄の所有に移っていた。

祖母と母の妹は文京区のこじんまりした一軒家に住んでいた。
私が生まれた当初は、祖母、母、母の妹の女3人と私の平和な日々だった。

父が東京勤務になると、杉並区の公務員官舎で父と母と私の3人の生活が始まった。
2軒長屋のような官舎で、お隣になったお宅とは、その後も交流が続いた。
おもちゃも絵本もない我が家に、お隣の家で不要になった車のおもちゃと車の絵本がきた。

父は自分と同等もしくは、自分以下の人とは親しくできるが、自分より頭が良いと思う人には苦手意識を持っていたようだった。

所詮は、自分より弱いものを下に見る傾向があり、自分より上の人のことは内心で負けていることを悔しく思っていたのだろう。

その傾向は仕事現場でも現れる。
同僚に犬猿の仲の人がいて、人間関係をうまくできないようだった。
自分が自分より下だと思っている人から何かを言われた時、父は猛烈に機嫌を悪くして家に帰り、家族に当たり散らすような人だった。

自分の思うようにならない子供も嫌いだった。
1歳になるかならないかくらいの私が、よく泣くと言っては苛立っていたらしい。
私が泣くと、母は外に連れ出して私を寝かしつけていたらしい。
そんな様子を官舎の人たちは見るともなく見ていたのだろう。
まあ、長屋のような官舎で、地声の大きい父が怒鳴れば、向こう三軒両隣に響き渡るというものだ。
「yu_mamaちゃんを捨てても、お父さんと顔がそっくりだから、すぐに戻されるわよ」
と、冗談とも本気ともつかぬことを近所で言われていたそうだ。

父は、私が大人になってから
「お前は赤ん坊の頃、ピーピー泣いていた」
と言ったが、赤ちゃんが静かにしている方がおかしいのではないかという反論はできなかった。
怖くて父の言うことを素直に聞くだけしかなかった。
母も、
「あなたが泣くとお父さんが怒るから余計に泣くし、外に出て寝るまで待つしかなかった」
と漏らしていた。

父は、
「子供は理屈が通じないから嫌いだ」と、幼少の頃の私に言ったことがある。
私も父のことは嫌いだと子供心に思いながらも、言葉に発することはできなかった。

私が2歳の頃、実家にいた母の妹が結婚して家を出て行った。
それと同時に、父と母と私は祖母の家に戻り、同居生活が始まった。
祖母が家事を何もできない人だったため、当時はお手伝いさんも乳母もいない中、母がすべての家事を担っていた。

祖母の家に間借りする身でありながら、父は自分の甥っ子を九州から東京に呼び寄せた。
父の上から3番目の姉は未亡人で、子供3人を育てていた。
その長男を東京の中学に入れて、後々は東大に入れると言って引き取った。
実際の面倒は母が見ていたわけだが、26歳の母が3歳の私を育てながら、いきなり中学生男子の親代わりになった。
どういう経緯で、どのような話し合いがあったのかについて私は何も知らないが、父は自分が言い出したことは必ず自分の思う通りに進めてしまうので、祖母も母も何も逆らえなかったのではないかと推察する。
無口な少年だった従兄弟を、まだ若い母が育てるのは相当な気苦労があったに違いない。

祖母は、上品でおっとりしていた。
お嬢様がそのまま年取ったような純粋な人だった。
いつも朝からきちんと着物を着て、髪の毛を結い上げていた。
家事は一切できないが、2階の自室だけは自分で掃除をし、客間の床の間には季節の掛け軸をかけていた。


母は、無口な中学生男子に気を使い、父のご機嫌を取り、家の中は緊張した空気が常に漂っている雰囲気だったからか、私は2階の祖母の部屋で過ごすことが多かった。
祖母は幼い私の空想の話を楽しそうに聞いてくれて、私はそれが嬉しくてたまらなかった。
が、母は
「yu_mamaは、また嘘をついている」
と、私を叱って、下に降りるように促した。

たぶん父に言われて2階に私を迎えに来ていたのだろう、と後になって私は理解した。
さすがに父は自分で祖母の部屋に上がることはなく、さりとて私が入り浸ることを良しとしていなかったのだろう。
母に向かって怒り、母はその苛立ちを私にぶつけていたのだと思う。
母は父の前で反論できない分、2階に上がるとヒステリックに私を叱ることが多かった。

祖母の家の1階で、父、母、従兄弟、微妙な空気の中、危なっかしいバランスを保ちながら暮らしていた。

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