白血病との闘い(13)妹との対面ーその2ー

妹のいる病室は、ガラスドアから近いところにある4人部屋だった。

廊下側にいる妹のベッドはカーテンで覆われていた。ミニ冷蔵庫は個人個人のベッドサイドに付いていて、反対側のベッドサイドにはロッカーが設置されており、居住空間は想像以上に広かった。

驚いたのは、トイレが男女共用で数も少ないということだった。どれほどの入院患者がいるのかわからないが、目の前のナースステーション横に廊下からいきなりのトイレ個室という造りで、しかも男女誰が使うかわからないというのは、ちょっと私には理解し難かった。無菌病棟で、シーツのみならずカーテンまでこまめに取り替えてくれるくらい神経を使い、患者は手洗いとうがいを励行しているというのに、菌の温床であるトイレが数も少なく男女兼用とは信じがたい。

実際、女性患者が入ろうとしたらトイレが汚れていて、すぐに掃除をしてもらうという事態も起こったことがあるらしい。

個室の病室ならトイレが完備されているから、妹は個室を希望していたが、たぶん数が少なく新患の重症な人が入るのだろう、空いていなかった。

妹が、この状況にも耐えて明るく「入院ライフもいいものよ」と言っていたのかと思うと、あらためて凄い人だと思う。私だったら、いの一番にトイレのことで文句を言うに違いない。

担当の看護師さんは、テキパキと作業をしながら明るく話しかけてくださる。私が最初にお会いした時に、パジャマのお姉さんですよね、とおっしゃり、患者のことやその家族のことをよくわかってくださっていると感心したものだ。仕事っぷりから見て、かなりのベテランで信頼おける人気ある方だと思われた。

抗がん剤の点滴が入っていることも忘れるほど、妹はいつもと変わらずおしゃべりをしていた。私もついつい妹が患者であることを忘れる。

そんな話の途中で、妹の携帯に着信あり。「じーじだ」と、慌てて点滴スタンドを転がしながら廊下に出て喋っている。相変わらず自分のことしか考えられない父だ。妹の病気のことをどれほど理解しているかは知らないが、少なくとも白血病という名前くらいは聞いたことがあるだろうし、それがどんな病気であるかの知識のひとつやふたつはあるだろうに、と嘆かわしい。

妹は、こうして時々かかってくる電話に丁寧に対応している。病棟内で大声で話すわけにもいかず、耳の遠い父にはほとんど妹の声が届いていないらしく、何度説明しても、いつも勝手なことだけ思い込みで話して終わるらしい。病院といえば回診があり、そこで病状について医者から話があると思っているので、今朝の回診で何を言われたか?ということも聞いてくるらしい。病状が毎日変化して良くなっていくという性質の病気でもなく、抗がん剤治療を繰り返して叩かないとならない病気であり、それは時間がかかる。毎朝の回診で、今日は昨日より良くなっているなどと言えるわけないだろうに、良くなっているかどうかを何度でも聞いてくるらしい。
これは純粋に妹を心配しているわけではない。いつになったら、自分のところに来てくれるのかを知りたいだけだ。父とは、そういう人だ。

電話を切った妹との話は、どうしても父のことが話題になる。どう考えても歪んだ家庭に育った私たちは、一般の方々にはわからないであろう異常な体験をしてきているし、普通の友達に話しても理解は得られないことが多い。子供時代のことは、同じ家庭に住みながらお互いに知らないことも多いので、いきおい、その知らない世界を埋めるように話が尽きず、結局イヤな父の話題でいっぱいになるというのも皮肉なものだ。

ここで父のことを書き出すと、これまた5月ごろにも色々あったものだから脇道逸れて長くなるからやめておくが、私はいずれは父にきちんと自分の気持ちを手紙にでもして伝えなければならないと思っている。実際、5月ごろから書いていて、それを妹に見せたこともあるのだが、なかなか完成していない。そのような話も含め、病室で辛気臭いことをボソボソと話すうち、夕食が運ばれる時間になってしまった。

その日の夕食は、ミートボールと野菜の煮込みのようなものと、おひたしのようなものだった。小さなミートボールが2個しかないのを見て、私は、え?と驚いたが、これで成人食の半分量という。いやいや、4個でも足りないでしょ、と思いながら、見た目にも美味しそうには思えない食事で、これならお菓子などで補う気持ちも十分に理解できた。

長期入院患者の多い癌センターの食事だもの、もう少し入院患者がワクワクするような献立にしてもらえないものか、という文句は私の心の中だけに留めて、妹に別れを告げ病院を後にした。

帰りの道中、病院の立派な建物と中身のギャップを思いながら私なら文句しか言わないな、と、あらためて妹の忍耐力に感心した。本人は、鈍感力だと言っているけれど、素直なのだろうなと思う。ありのままを受け止められる性格だから、自分の置かれた状況に文句も言わずにいられるのだろう。

でもね、その性格が災いして無理を重ねて過労から病気を引き寄せた可能性もあるので、今後は毅然とした態度で断ることは断ってほしいと願うばかりだ。

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