よれよれ老老介護

 ご存知の通り、私はつい最近60歳になった。 テレビのニュースで
「60歳以上の高齢者が・・」
なんていうのを耳にすると、ああ、88歳の父と私は同じ分類をされているのだな~と感じる。

 その60歳の私が、88歳の父の着替えなどを手伝うために、朝と夜に実家に通っている。

 ご存知かどうか、父は80歳の時に連れ合いを亡くした。(その時、母は74歳という若さだった。)以来、父は一人暮らしをしてきた。80歳にして料理を覚え、『男の料理教室』なるものにも通っていた。

 今では、料理、洗濯、掃除のすべてに困ることもなく、私がそれらの不都合で呼び出される回数は減ってきていた。

 ところが、今回の回転椅子からの落下という馬鹿げた事故により、すっかり何もできない年寄りになってしまった。利き手である右上腕部を骨折して固定されてしまったため、左手だけでは不自由極まりない。

 私は、朝8時15分頃に我が家を出る。凍っている車のフロントを温め、前が見える状態になって出発する。朝は道路が混んでいるため、約30分かかって実家に到着する。

 9時近くに実家に着き、新聞をとってから室内に入る。父はベッドの中からテレビを観ている。

 私が声を掛けると起き上がり、トイレに行く。
 私は足元の電気ストーブをつけて、着替えのセッティングをする。父がストーブ前に座る。

 身体を固定しているバンドをはずし、三角巾をほどく。浴衣をそーっと脱がす。下着のシャツを脱がす。

 次に新しいシャツ、ヒートテックの長袖、ワイシャツの順に着せる。

 その上から、三角巾をつけて腕を身体に沿うように締め上げる。さらにバンドで強く固定する。

 カーディガン、ベストを左腕だけ通して羽織らせる。

 これで上半身が完成する。

 次に立たせて、浴衣を完全に取り除き、股引、ずぼんを穿かせる。 

 再び椅子に座ってから 大事な大事な 「靴下の儀式」が始まる。

 父は外反母趾がひどく、足指の付け根が飛び出している。それだけでなく爪のほとんどが死んだような色に変色していて、反っくり返ったり丸まっている。足の指もあちこちにひん曲がっている。

 その足に5本指ソックスを穿かせるのは容易なことではない。なんとか穿かせたら、次は外反母趾用の装具をつける。左足には2個、右足の親指に包帯を巻いてから装具を1個挟む。
 その上から、黒いストッキングような膝上までの靴下を重ねばきさせる。さらに、ウールのソックスを重ねて穿かせる。

 この儀式が終わる頃には、私は汗びっしょりになっている。 父は洗面所に行く。

 私は洗濯機を回しながら、朝食を用意する。トーストにサラダ、ハムと野菜の炒め物。仏様のお茶や水、お供えも用意する。

 それらを父に出し、仏壇へのお供えも済ませたら、洗濯が終わるまでの時間で掃除を簡単にする。洗濯物を干したところで、父の朝食の後片付けを済ませて私は帰る。

 そして再び、夜の8時半頃に家を出て9時頃に実家に行く。

 父はテレビを観ながら、私の到着を待っている。 私の姿を認めると、トイレに行く。その間に、私は手を温めておく。

 衣服を慎重に脱がし、固定バンドと三角巾をはずし、シャツ1枚になったところで浴衣を着せる。その上に丹前をひっかけておいて、ズボン、股引を脱がせる。

 そして例の 「儀式」が始まる。日中に穿いていた3枚重ねの靴下を脱がせたら、今度は夜用の装具をつけなければならない。左足の親指に装着する「外反母趾対策バンド」は、アーチの部分に巻き付けて、踵に引っ掛けた紐を強く引っ張ってマジックテープで留める。更に指の間に装具を2個つけて、寝る時用の薄手の靴下を穿かせる。右足は、親指に包帯を巻き付けてから、装具をつけて靴下を穿かせる。

 頭には、私と妹から送ったナイトキャップをかぶせる。

 ベッドからテレビが観られるように角度を決め、リモコンを持って布団に入る。 私は、リビングのエアコンを消してキッチンのエアコンをつける。

 母が病気で起き上がるのも大変だった晩年の2年ほど、リビングに介護用ベッドを置いていた。亡くなった母の使っていたベッドを、父はそのまま使っている。だから食卓があり、サイドボードがあるところにベッドもあり、動線は短くて済む。オープンキッチンになっているキッチンのエアコンをつけておけば、リビングまでがほんのり暖かくなり都合が良い。

 脱いだ衣類を洗濯機のところに置いて、私は電気を消して玄関ドアの鍵をかけて寒空に出る。

 すっかり冷えきった車に乗り込み、家路につけば10時をとっくに過ぎている。それから私たちの夕食。

 その頃には、私は疲れきっている。朝晩だけとはいえ、これを毎日欠かさず行うのは、結構な大仕事になる。朝晩だけでなく、ヘルパーが来る初日には顔を出し、ケアマネの調査があれば立ち会わねばならない。師走の忙しい時期。私とてヒマなわけではない。グリーグの会が終わってから本格的にやろうと思っていた大掃除も手つかずだし、年賀状も手を付けていない。 
歯医者の予定もあるし、ピアノのチビちゃんは来るし。。。


 でも本当は そういうことではない。

 精神的なストレスが強いっていうことかな~。ま、父娘の関係がもともと最悪だから。

 私がてきぱきと介護認定の申請手続きを進めたり、お弁当の手配などをチャッチャとし、社会福祉士やケアマネが訪問してきて、ヘルパーに何を頼むかという相談をしている時に

 社会福祉士の前で

 「昔は、こんな制度がなかったから、家族が面倒を見るのは当たり前だったんだ」
と言う父。

 やな感じ~。

 すかさず私は 社会福祉士に向かって言う。

 「私、仕事もしていますし、60歳ですよー。もうヘトヘトです」

 よく考えてみたら、私の祖父母は若くして亡くなっている。72歳まで生きていた母方の祖母だって、老人ホームで最期を迎えた。

 父は 親の介護なんて 全く経験ないじゃないの。自分の両親を亡くしたのは、まだ20代とか30代のころじゃないの。九州と東京に離れていたから、お見舞いだってしていないっしょ。

 自分が60歳の時、何をしていた? 転勤先の仙台で公用車に送迎されて通勤し、東北6県の祭りといえば お供を従えて観光に出かけていたじゃないの。 遅めの出勤、明るいうちの退勤だったじゃない。

 いえ、別に文句を言っているわけじゃあない。ただ、当たり前だとは思わないで欲しい。母のように専業主婦で、しかも両親の介護を1度もしたことがない人もあれば、私のように仕事を抱えながら父の介護をする人もいるのは、それはそれでいい。ただ、家族がみるのが当たり前というのは違うでしょ。

 私は我慢もすれば譲歩もする。趣味のコーラスは休んでも構わない。遊びに出かけることも我慢する。飲み会もパスする。そうやって実家に朝晩通って、着替えを手伝うくらい構わない。

 だけど、「朝来るのが遅い!」「オレは我慢しているんだ!」「家族が面倒をみるのが当たり前」

 それを社会福祉士に言われるのは、ちょっと悲しい。

 お互い 老人枠なんだから。

 老老介護でよれよれしているんだから。

 褒めておだててやってよ!なんせ60歳なんだから~。

 

この記事へのコメント

あめめ
2013年12月22日 10:06
多分・・・多くの介護をなさっている家族の方が同じような体験をしていると思いますよ。確かにご高齢の方々は、現代に考え方がシフトされていなかったり(皆さんが退職なさっていた年齢でも今の方々は働いているとか)、或いはすでにうちのように現実が把握できなくなっていたり、色々あるなかでそのご高齢者が介護に来てくれる人に色々言ったり・・・。或いは逆に、それまで何十年とあるその家族の”歴史”をしらないケアマネに酷い事を言われ(もちろんあちらはそんな状況微塵も理解していない所がまた問題)家族が心身ともにやられてしまうケースも多くあります。
社会福祉士の方が、きちんと相手は老人であること、片側からだけのインプットである事などを認識して下さっている方だと良いですね。きっと解って下さっていますよ。
2013年12月22日 11:09
。。。。。。。
2013年12月22日 11:56
 お父上の世代は、親の面倒をみることは当たり前の世代。
私たちの世代は、「親を看る最後の世代&子供に介護されない最初の世代」と聞いたことがあります。
 なんとも不公平とは思いますが、時代背景と共に、親子と言えども齟齬があるのは仕方が無いですね。可能な範囲で頑張るしかありませんね。
 かく言う自分は、子供たちは遠隔地。老後は他人さまの世話になることになるでしょう。現段階では、先のことは深く考えないようにしています。
 
yu_mama
2013年12月22日 16:42
あめめさま
時代の変化に頭がついていっていないというのは、確かにあるでしょうね。ただね、グチりたくもなるわけです。幼少の頃からずーっと父に怒鳴られて怯えて育った私には、トラウマが大きくってね。時代の変化といえば、父はかなりの年金をもらって、今も仕事もしている裕福な身ですが、私たちの老後は不安だらけでしょ。僅かな仕事でも私は続けたいですし、小さなお金が出て行くのも辛いです。片道12キロほどの実家まで、一日2往復しますと、ガソリンが減るったらないです! その他にも、細かいことを言うようだけど、ちょっとした買い物を頼まれたり、、、、。持ち出しです。

社会福祉士の方は、よーくご理解くださっているようで、帰り際に玄関で、そーっと
「市役所からの調査員が来た時、お父様の前で言いにくいことは電話であらかじめ話しておくといいですよ。」
と教えてくださいました。また、介護認定など必要ないと思っている父が、なんでもできて自立していることをアピールする可能性があるので、そのあたりも根回しが必要だと言われました。「非該当」の結果が出てしまうと、前倒しで使ったヘルパー利用料が全額実費になると言われました。何が何でも「要支援」をとってください!と言われました。
yu_mama
2013年12月22日 16:43
seizi05さま
。。。。。。。。。。。。ですよね~。
yu_mama
2013年12月22日 16:54
山いろいろさま
なるほどね~。私たち世代は、過渡期っていうことですね。私は、子供たちを頼るつもりもないので、ホントのところ、自分のお墓はマンション形式の面倒のないタイプにしたいと思っているくらいです。不動産もすべて処分した状態で死ねたらいいな~って思っています。そのお金でホームに入って、そこそこで天国にいく!という理想を掲げております。(笑)一周忌とか三回忌とか、いつまでも大変だから、改宗しちゃおうかしらとまで思うほどです。そういうところ、女性の方が往生際が良いかもしれません。なぜなら、やはり女性が世話をする可能性が高く、とても大変なことがわかっているからです。
 
 父は、九州男児で姉5人いる末っ子長男ですから、ずーっとお殿様で育ちました。母も父の世話をするのが当たり前と思って尽くして来て、身体を壊して亡くなりましたから、80歳で一人暮らしを始める時には、私たちとても心配しました。ただ、そこから8年間をひとりで頑張って来たことは尊敬しております。できないことをしてきたのですからね。
 今、私が着替えを手伝いに通うことは、やってできないことでもないのでいいのですが、社会福祉士の前で私をなじるようなことを言うのが、なんとも悲しいです。朝9時頃に行くのがやっとなんですけど、オレはもっと早くから起きたいのに来るまで我慢してるなんて言われちゃうとねえ。しかも私には何も言わないくせに、人に言う!私の目の前で!! 根性悪いんとちゃうか?って思ってしまいます。
雨音
2013年12月22日 17:24
あ~それは辛いですね。
「ありがとう」の一言があれば 介護する側の気持ちは大分違ってくるんですけどね。
それと大きな声では言えませんが、せめてお礼のお小遣いくらいは 親子であっても礼儀だと思いますよ。
yu_mama
2013年12月22日 19:50
雨音さま
そうですねえ。1度だけ「yu_papaに不自由掛けてスマンと伝えてくれ」と言ったことはあります。いやいや不自由なのは私です!
元気だった時でも、買い物を頼まれることがあって持っていきますと代金をくれないことが結構ありました。大掃除に行く時には、掃除グッズやら猫よけの薬なども頼まれて用意していくんですけどね。本人不在なものだから代金はもらえません。妹とお弁当を買って持っていっても、交通費からお弁当代まで自腹。今年は、珍しく私と妹の誕生日が近いこともあって「寸志」が置いてありました。でもねー寸志と買い物の代金は別じゃない?って思ってしまいます。
さすがに、今回は「パンとハムを買って来たけど」と声をかけたら代金は出してくれました。(って当たり前か) でもお礼とか、お小遣いっていう感覚はないと思います。
子供の頃から、誕生日プレゼントもお祝いの食事なんかもなかったですしね。その割に、自分の誕生日に誰も何も持っていかないと大変です。毎年、妹とふたりでプレゼントに頭を悩ませて、私が届けていますよ。古希だの喜寿だの米寿のお祝いを家族総出でレストラン予約して開いていますが、私たちは、そういうお祝いをしてもらったことありません。成人式も祝ってもらわなかったし、、、還暦を迎えた今年の私にも、なーんもない。電話もない。
「やってもらう」に徹しています。(苦笑)
2013年12月25日 16:20
お父様は老々介護と思ってないからね~。自分も、こんな目に合わなければなんでもできると思ってるし、娘はいくつになっても自分の子供で指図すれば動くものと思ってる。うちの妹も、私より若いとはいえもういい歳。行ったり来たり世話したり・・・大変だけど、弱者の立場になった親に冷たい事言いたくないから我慢してるのに、父は「○○(妹)は文句言わずに世話してくれるから」ってなんでもしてもらおうとするんだ。母はわかってて「ありがとう」とか「ごめんね」とか言うけど、父は「ありがとう」って言いつつ、妹をこき使うだな~。って、何もしてない私が言うのもナンですけどね。yu_mamaさん、今って介護認定かなり厳しくなってるから、お父様に何でもできるアピールだけはさせないようにしないと・・・。
yu_mama
2013年12月26日 00:22
Selfishさま
そうですね~。自分が高齢者だと認識しているかどうかも怪しいです。88歳とはいえ、自分だけは若いと思っている節があります。
おっしゃる通り、娘なんてリモコンで自分の思いのままに動くと思っていますからね。
こき使っているとも思っていないと思います。当たり前のことをしているだけってね。
明日、介護認定の調査員が家に来ます。やりとりが怖いです。

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