介護認定調査

 88歳11ヶ月になって転んで骨折した父は、初めての介護認定申請をした。
 
 高齢であり、近所付き合いの薄い男性であり、一人暮らしであることを考えると、私たち姉妹は常々から

 「いざと言うときのために、今のうちに介護認定の申請だけでもしておいた方がいいわよ」
と、言っていたのだが、本人は頑に拒否し続けていた。

 「娘が親の面倒をみたくないからできた制度だ」
と、決めつけて拒否してきた。

 申請を出したってすぐに認定は下りないのだし、非該当ならそれでいいわけで、ケアマネさんと知り合っておくことや、今後は更新をしていくだけで済むのだから、やっておいて損はないと言っていたんだけど。

 父は、介護認定を受けたらデイサービスを利用して、お手玉やお遊戯をしなければならないと思い込んでいる。そういうことではないと、いくら説明しても理解は得られなかった。

 今回の突然の骨折で、私は有無を言わせず介護認定申請を行った。地域包括支援センターから社会福祉士がその日のうちに来てくださり、

 「実は、2年前に訪問いたしまして、私からも介護認定申請をオススメしたのですが、
  お断りされたのですよ」
と、私だけにそっと教えてくれた。

 そうだったのか。

 近所の民生委員の方も訪問してくださり、親身になって申請を薦めてくださっていたらしい。

 それでも、冗談じゃない!と、追い返したらしい。

 申請をしてから約1週間後、認定調査員が市から来てくださることになった。その連絡があったのは、申請手続きをした翌日だから、かなりの緊急性を把握してくださっていると思われる。

 「なんだー1週間も待たせるのか。こんなお役所仕事をしているから、役に立たんのだ。
  すぐに必要なのに、なにを1週間も待てだ?」
と、文句を言った。

 文句を言える筋合いか。

 「だからーーーー 元気なうちに申請だけでも出しておけばねー」

 その約束の日が、26日だった。朝9時半と決めてあった。 

 朝の着替えを早めに済ませるため、私も早めに行き、着替え後の朝食準備をしている時に電話があった。

 「9時半にお約束通り お伺いしますが大丈夫ですか?」
という内容だった。

 父は、「なんの電話だ?」 「え?今日来るのか?」「そうだったか」

と、まったく忘れていたようだ。先週の電話で文句を言ったことなど、すっかり忘れている。

 調査員が時間通りにみえて、丁寧なご挨拶をされ、失礼な質問もあるかもしれないけれどご容赦くださいという断りまでしてくださる。

 「お名前を教えてください。」

 「ここは、どこですか?」

 「今日は、何日ですか?」

 「朝食は召し上がりましたか?何を食べましたか?」

 父は俺をバカにする気か!?と怒るかと思ったが、素直に答えていた。若いがしっかりした調査員の上手な話し方に、すっかり魅了されたに違いない。相手は、父のプライドをくすぐるような持ち上げ方をしながら、調査を進めて行く。

 右腕が使えなくなったことによる不便さを細かく記録する。

 歩行させて様子を見たり、寝る時のベッドの様子などもチェックしている。

 「認知症もまったくないですし、お仕事をされていて社会貢献もなさっていて、まったく自立され
  ていらしたのに、骨折により不自由になったということですね。」
と、これまた父の喜ぶようなことを並べておっしゃる。

 父も気を良くして、自分の職業を言い、財団法人の理事長の肩書きまで自慢した。

 「今、正法眼蔵の本を読み、修行をしているところです。こうして本を読み、ボケないよう
  気をつけています」
と、言いながら、正法眼蔵の本や、ドイツ語の本を見せびらかした。いちいち褒めてくださる調査員に、私は心の中で手を合わせた。

 1時間の3者面談をしているうちに、私たちの親子関係もある程度みえてくるのだろう。父の言葉の端々にも、子供が親の面倒をみるのは当然だという含みが表現されるようになり、私が困っている様子も観察してくださったようだ。

 デイサービスのような形でリハビリを目的としたところもあるので、運動の習慣のない父に薦めてくださったが、父は返事もしなかった。デイと聞いただけで拒絶反応を示した。私は、調査員だけに聞こえるように、こういうものを家族から薦めても無理なので、周囲から言ってくださるとありがたいということを伝えた。施設見学もできるので、認定が下りたら声をかけてくださるそうだ。

 その直後
 「どちらかというと頑固ですか?」
と、単刀直入に質問されたことに、私はヒヤッとした。思わず父の顔を見て、慌てて私は

 「頑固というよりも、自分の考えが明確にありますので、そこを譲るのは難しいといいましょうか」
と、なぜかしどろもどろにフォローしてしまう。

 怒らせたら怖いという気持ちが、父親擁護の説明をさせてしまうらしい。


 
 帰り際、玄関でふたりきりになった時に、調査員の彼女は、

 「何か、困っていることはありませんか? 朝晩毎日通うのは、とても大変だと思いますけど、
  大丈夫ですか?」
と、いきなり気遣ってくださった。

 予想もしていなかった言葉に、ふいをつかれ不覚にも涙が浮かんできた私は、言葉を詰まらせながら

 「昨日、整形外科で医者と看護師に向かって怒鳴りましてね。」
と、ざっくりと説明した。

 目を丸くして驚いた彼女は、今までの調査でのやりとりと合わせて何かを感じたようだ。

 「無理は禁物ですよ。」
と、私を思いやってくださる。

 ただし、介護認定の基準に「親子関係の歪み」なんていうものはないし、娘が精神的に追い込まれていることなどの項目もない。

 調査票からは見えてこない家族の悲鳴のようなものが、認定に盛り込まれることはない。

 玄関での立ち話があまりにも長かったので、父が怪訝な顔をして部屋から出て来た。耳の遠い父には、私たちの会話はまったく聞こえなかったと思うが、明らかに自分の悪口を言っていたのだろうという疑いの目で見ていた。

 慌てて調査員は帰って行き、私はリビングに戻ると

 「腕の骨折がよくなったら、少し運動のできるリハビリ施設に通うと良いって教わったわ」
と、誤摩化した。

 実際、父のように認知症もなく、自立している高齢者が3時間程度のリハビリを中心とした運動機能維持のために通う施設がある。普通のデイサービスのように1日中いて、お茶を飲んで喋ったり、入浴までするようなところには、とても行くとは思えないので、そういうところばかりではないことを強調しておいた。

 家に帰ってから、地域包括支援センターの社会福祉士に電話をし、調査の終わったことの報告をした。そのついでに、整形外科での怒鳴りつけ事件を簡単に報告すると、

 「そうですか~。娘さんも大変ですね。認定が下りるといいですね。
  たぶん非該当には、ならないと思いますから、認定が下りたらすぐにご連絡ください。
  リハビリを中心とした施設のことは、私からもご説明しますね。」
と、言って頂いた。

 さてさて、認定が下りるのは、来年1月も半ばを過ぎるだろう。年末年始で役所もストップしてしまうから、普通よりも時間はかかるだろう。

 お弁当の宅配も年末年始はお休みになるし、

 今、週2回の朝だけ来て頂いている社協のヘルパーさんも年末年始はお休みだし


 なんというタイミングで骨折したかねー
 
 

この記事へのコメント

2013年12月29日 16:02
本当に大変ですね。
我が母も、先月初めて、ディーサービスに行って、なんで折り紙や塗り絵をやらなければいけないのか・・・周りの人と話が合わない(彼女曰く、政治の話なんぞする人がいないー元税務職員です)と1回でやめてしまいました。
母親に、それは、機能訓練なので、子どもみたいなことをしているのではないんだよ・・と話しましたが、拒否反応・・・・
今は、父親だけがディーサービスに週1回通っています。父は、何度も施設を変えて(登校拒否みたいに)いますが、今度の所では、もし起きれなかったら、迎えの職員がベットまで迎えに入りますよと言って下さり、母に、怒鳴って、起して、着替えまできちんとしなくていいんだよと言いました。
自分が絶対正しい(確かに立派な生き方をしてきていると思うけど)と思って生きてきた人は恥ずかしくないようにと思うのか、難しい面がありますね。
弱るまで待とう????の心境です。
ケアマネさんは、本当に親切で、助かっています。
お節を買うようになって、お正月も楽になっています。利用を初めて5年位かな。
お金なんか残さないでいいから、楽をしようと言い続けています。
2013年12月29日 16:31
介護度認定は私も経験があります。
父の場合、普段不自由してるのに、見栄張ってできると答えて、帰られてから、母が父に怒ってたことや、父が亡くなり、母の時は何でもできましたが、末期の癌だったので、即認定でした。でも利用することなく、亡くなってしまいました。
以前、勉強のつもりでホームヘルパーの資格を取った時、施設で実習も体験しましたが、ディサービスなど楽しまれている方は周りとの協調性も必要かなぁ~って思いました。
yu_mama
2013年12月30日 01:35
三毛猫さま
26日のことでして、ちょっと話が前後してしまったのですけどね。
やはりデイサービスは認知症の方が多いので、しっかりした方には合わないのでしょう。三毛猫さんのお母様と私の父だったら、政治経済の話から、読書の話まで合うかもしれませんね~。
今回の骨折で腕を固定されているために、身体のバランスも悪くなっているので、あまり歩かなくなった父です。そうなると、ますます身体は弱っても口は達者というアンバランス傾向が強くなり、より厄介になるな~と思っています。
ケアマネさん、社会福祉士さんたち、本当によくできた方々で、お若いのにしっかりされています。頼もしいですよね。
お節ですねえ。セットになっているものを買ったことがないんですけど、そういうのを割り切って利用すればいいのでしょうね~。毎年、父の分も作って大晦日に届けています。今年は、着替えもあるし、まあどうせ行かねばならないのでいいんですけどね。

調査員さんに、「運動はしていますか?」と聞かれて、自己流で家で身体を動かすぐらいだと答えたら、やはり専門家のいるところで定期的に運動することが良いと言われましたけど、ああ、それって私もだわ~って、ちょっと自分のことが心配になりました。まったく運動していませんし・・・トホホ。
yu_mama
2013年12月30日 01:42
たぁくんママ さま
そうでしたか。
やはり自分はなんでもできる!と、ついつい見栄を張る方は多いようですね。父の場合は、今まではすべて自立していたわけですから、骨折がなければ不自由はないわけで、そのあたりをどのように評価されるのか疑問です。ただ、整形の先生は、
「ひとり暮らしなの? それじゃ、書かなきゃ」
っておっしゃっていました。家族がいれば、腕の骨折程度だったら、生活に何も支障ないんですよね。
たぁくんママ さんもヘルパー資格をお持ちなのですね。実は、私も持っております。だから、老人施設での実習経験はあります。が、実際の仕事は、精神障害の方の自立支援をしていたので、老人の介護は仕事としては、やったことがありません。実習では、レクリエーションを任されて、紙飛行機を飛ばして遊びました。今、考えたら、父がそんなところで、紙飛行機を飛ばすはずもないな~と。笑えます。そう、その時、ひとりの男性は絶対に仲間に入りませんでした。でも、後でこっそりひとりでやっていましたけど(笑)
協調性ゼロの父には、ホント無理ですわ。
パック
2013年12月30日 05:49
義父の介護認定思い出しました。
当時は7月だったかな?
義父は季節を聞かれ、「秋です」と‥
しっかりしていると思っていたのですがね。^_^;
yu_mama
2013年12月30日 13:03
パックさま
そうそう、今の季節は?という質問もありますね。父なんか、質問が始まる前に、自分から「どうせ今日の日付なんかを聞くんでしょ?」と、調査員に自分から言っていました。やはり、認知症ではないぞ!ということのアピールをしたいみたいですね。
認知症も大変ですが、頭がしっかりしすぎているのも、とっても大変です。こっちが忘れているようなことを覚えていたりすると、もう~たいへ~~ん。
2013年12月30日 16:50
みなさん、最初の認定調査には大変な思いしてるんですね。実家の両親の方は妹がケアマネの資格を持っているので、その辺はうまくやってくれてるし、父も頑固だけどそこは妹のいうことを理解して素直に(でもないか?)従ってくれるので大変なりに何とかなってます。義父のときは、一番最初の時が私が対応したので、やっぱりyu_mamaさんのお父様と同じようで。私には余計な事は言うなという態度で、自分はしっかりしてるアピールしまくり。帰り際に、外で調査員の方と話をしていたら、同じように悪口告げ口してるんだろうって感じで外に出て様子うかがわれました。その後は、実の親子の方がお互いやりやすいので、義妹にほとんどお願いしちゃいました。
おせちも作って届けたり、本当にyu_mamaさん頑張りますね。でも、全部は大変なので、徐々にやる事を減らせるようにお父様を慣らす(?)っていうか丸め込むっていうか・・・負担を減らしていかないと自分が壊れちゃいます。
yu_mama
2013年12月30日 20:59
Selfishさま
妹さんがケアマネの資格をお持ちなのですね。
昔は「認定」なんていう制度も、もちろん介護制度がなかったわけですから、自分が分類される抵抗感は、あるかもしれないですね。あの時代の人には特に。
父の場合は、普通の場合と違って、骨折によって一気に生活の不自由が出て来たので、レアケースかもしれないです。いずれ治る骨折ですから、現状よりよくなることになりますよね。普通は認知症での認定が多いから、良くなるということは考えにくいですよね。そのあたり、父のこだわりがあるかも。
おせちは、毎年作って届けていますので、まあ、うちの分を作ったついでということで。土日と休めたので、復活。今日、黒豆を煮ました。数の子も漬け込みました。料理はさほど苦痛にならないし、気分転換になりますね。着替えに通うのだけが苦痛~

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