怒鳴る

 骨折から10日が経った。私には長い10日間だった。そして、これからもまだまだ続く身体介護

 25日は、初診以来の整形外科外来の日だった。

 今年はクリスマスイブもクリスマスも ない。

 いつものように実家に行き、朝の着替えをさせ、朝食を作り、食べさせたら片付けをして。仏壇のお茶とお供えもして。その間に洗濯をして干して。

 整形外科に連れて行く。

 そこで 父が怒鳴った。

 医者と看護師相手に怒鳴った。

 私はなすすべもなく、ただ黙って隅っこに立っていた。


 何がイヤって、こういう場面がイヤだ。 自分の言いたいことがあるなら、普通に喋ってくれ!って思う

 怒鳴った理由は、医者が

 「前開きの下着を着ていないのか~。前開きを着てくださいよ」
と、言った一言だ。

 「なんでだ!!
と、最初からけんか腰の父。人から自分流を口出しされるのを好まない。

 「脱いだり着たりするのが大変でしょう」
と説明されると、ますます激怒した。

 「オレは、右手が使えず着替えさせてもらっているんだから、どっちだって変わらない。そんな
  前開きだってかぶり式だって、オレは何も変わらん。なんで前開きにしなきゃならないんだ!

 医者が患部を診ようとしたが、衣服を脱ぐのに時間がかかると判断し、

 「ほーらね。簡単に診られないでしょ」
と、父を挑発するような言い方で言う。

 「何が ほーら!だ!!!!!

  (ああ、ドクター 火に油注いだね。)


 看護師が、
 「頭を通さなければならなくて大変なんですよ」
と言えば、

 「そーんなこと、どうでもないことだ。前開きにしなければならない理屈が理解できん

 前開きにしろ、かぶり式にしろ、腕を見せなければならない時には袖を脱ぐだけだから同じだ。

 「違いますよ~」
と看護師は笑いながら言う。それが余計に父の逆鱗に触れる。

  (まあ、皆さん、地雷をいっぱい踏んでくれること、くれること^^)

その怒鳴り声は、診察室のドアを超えて待合室にも響いているに違いない。

 「俺は着替えさせてもらっていて、何も前開きにしなくてもできているんだから問題ない。

 「いえいえ、患者さんの負担を軽くするためにも前開きの方が便利ですよ」

 「そんなことない!俺は 前開きにしてもかぶり式にしても、自分で着替えられないのは変わらないんだから、まったく関係ない。

 こうやって激昂する人というのは、自分で怒鳴りながらさらにヒートアップし、どんどん怒りが盛り上がる。自分の主張がいかに正しく、理に適っているかに陶酔しながら、相手を怒鳴り声で制圧しようとする。相手は医者と看護師という専門家であり、常識として世間の誰もが知っているような内容を言っているのだが、そこが納得できない父は、全世界を相手にしても闘うぞ!論破するぞ!!の意気込みで激しさを増す。

 「着替えをしてくださる方が大変なんです。ヘルパーさんがやってくれて、もしも怪我がひどくなったら   ヘルパーの責任問題になりますから。」

と、看護師も別の切り口から説明してくださる。

 「そんなことあるもんか! どうも理屈が通っていなくて俺には理解できん。俺は理屈でモノを言う人間だからな。納得できん。


 私は・・といえば、ただただ医者や看護師、他の患者さんたちに申し訳ない気持ちで小さくなるばかり。

 父を押さえることは不可能。

 医者や看護師に 「すみませんね」という目線を送るのが精一杯だ。診察椅子に座っている父の背中越しに立っている私は、こそ~っと会釈と困った顔で自分の気持ちを表現した。

 こういう頭に血が上った患者は放っておくのが一番と思ったのか、医者は部屋から出て行った。

 

 レントゲンの結果は、私にとっては最悪だった。

 「よくも悪くもなっていません。」
というものだった。

 骨が細く弱くもろくなっているので、怪我をした直後の画像となんら変化のない状態だった。つまり骨がくっつこうとする形成の動きがないという。

 「おれはカルシウムを摂っているから 治りは早いはずだ」
と言っていた父だが、医者の言葉には絶句したのか何も返せなかった。

 会計が終わって帰りの車に乗り込むと、

 「最初から整形外科なんて当てにはしていない。レントゲンで骨がどうなったかが見られたから、
  それでいい」
と、ワケのわからぬ言葉で自分を納得させているようだった。

 父を家の前まで送り届けたら、私はすぐにもその場から離れたかった。

 自宅に向かってひとりで運転しながら、涙が流れて止まらない。


 家に着き、ひとしきり大声を出して泣いたら、お腹が空いていることを思い出す。なにしろ朝食抜きで実家に通っているので、たまらない。

 昼食後、デパートの介護用品売り場に行った。前開きの半袖シャツを購入したが、あいにく長袖は置いていないという。受診の時に、血圧だの採血だのという度に腕まくりをするのが大変なので、七分袖で袖口がゆったりしたものしかないそうだ。

 そうなると、父は決まって文句を言う。

 「スースーして 俺は風邪を引く」
って。

 そういえば、診察室でシャツ一枚のまま待たされた時にも、

 「寒いぞ!寒いぞ!! 俺は風邪を引くぞ!!!!」
と、風邪ひき宣言をしていた。

 私は、父が風邪で寝込んだ姿を何度も目にしているが、ほとんど風邪を引いたことはないことも知っている。本人が風邪だと思い込んでいるだけで、熱も咳も鼻水も出たのをほとんど見たことがない。風邪を引いたような気がしているだけで、いつも1週間は寝込んでいた。

 狼少年のような「おれは風邪を引く」だから、私は返事もしなかったら睨まれた。

 それはともかく、長袖の下着を探し歩き、結局前開きがないのでかぶり式を買ってきて、自分で前を切って作り替えた。

 そんな作業に時間を取られ、再び車に乗り込み実家へと向かう時間になってしまった。


 冷蔵庫の中のように冷たい車のシートに身を置き、ガタガタと歯をならしながら震えて運転する。

 実家の近くのコンビニから先に進めなくなった。コンビニでホットコーヒーを買い、飲んで気持ちを落ち着かせる。

 気合いを入れたところで、実家の玄関ドアを開ける。


 「どーしても前開きにする理屈がわからん!
 理屈に合わないことを、あいつらは言う


 まだ言ってる

この記事へのコメント

2013年12月26日 15:51
まあ ちょっと医者の言い方もお年寄りへの敬意が感じられませんが・・・
『自分で怒鳴りながらさらにヒートアップし、どんどん怒りが盛り上がる』なるほど。身近にもおります。仕事先の代表ですが。分かっていてもたまにはこちらも挑発されて怒鳴り返してしまいます。次の日はお互いなかったことのようにしゃべりますが。
かぶり式をご自分で作り変えたなんて・・ホントにホントにご苦労さまです。骨折が1日も早く良くなりますように。 
2013年12月26日 17:38
頑固で、言いたい放題幸せなお父さんだなと思います。感謝しなくちゃね。
幸せなお年寄りも、この年代で終わりですね。
われわれの世代は、お金を貯めて(節約して)老人ホームに入る算段をしなくてはいけないですものね。
父が入院したときに、前開きのシャツを買いました。ドラックストア―で売っています。
我が父も、カーテンを引け、エアコンをつけろとうるさいらしく、母親に老人ホームに入れるよと脅かされているようです。感謝しなくてはいけないよ。私が倒れたらどうするの・・・・と説教されているようですが、すぐに忘れるようです。
2013年12月26日 18:38
さぞ辛かったでしょう?嫌だったでしょう?
お疲れ様でした。Hug Hug Hug!
近くにいたらHugいっぱい上げれるのに。
わたしの父も怒鳴る人でしたのでとてもよくわかるんです、お気持ち。。。
ヘルパーさんの回数増やせませんか?
週に1度で十分だと思うのです。
この状態で音楽は難しいですね。発声についての切り口、このブログでいただきました。どうもありがとうございます。
そして、怖かったら逃げていいのですよ。頑張れなくなっても大丈夫ですからね、どうぞ無理なさらずお過ごし下さい。
2013年12月26日 20:52
なんだかやっぱり妹とyu_mamaさんがカブります。一緒に泣いてしまいそうです。
ちょっと前までの父もそうやってよく怒鳴ってました。でも、人工心肺つけての心臓の手術や肺がんで一部摘出、とどめは脳梗塞で半身まひ。さすがに、おとなしく(でもないか?)なってきました。でも、性格は変わらないから、自分流にきっちりやりたくてあれこれ妹に指図するから、妹はすごいストレスです。それでも、マヒの残る足がひっかからないように、パジャマのズボンの裾にゴムを入れたり、妹も本当は嫌いな縫い物してます。かぶりのシャツを前あきになんて、ホント大変そう。本当に頑張りすぎないでくださいね。。。
g
2013年12月26日 22:48
「前開きのシャツ」ですか、寒そうですね。自分の場合年のせいか、「寒い」と感じるとすぐ鼻水が出るようになります。歳を取ると、一度冷えると暖まるまで時間が掛かります、気のせいかもしれませんが。
お父様の気持ちが分かるような気がします。
前開きなら、下にTシャツかラニングシャツを着ないと、私は多分駄目でしょう。
yu_mamaさんのような家族があって、お父様は幸せです、羨ましいです。
yu_mama
2013年12月27日 18:12
リカステさま
どんなところにもいるのですね~。怒鳴る人。ま、私も結構、子供たちを育てている時に怒鳴っていましたから、人のことまったく言えないんですけど。私が怒鳴って育てられ、子供は怒鳴って育てるものという認識もあって・・・チガウか。
かぶり式のシャツを真ん中で切ったものの、時間がなくて前立てを作ることもなく、そのままほつれないように端を縫っただけですからねえ。芯も入っていないところにマジックテープを縫い付けてしまったから、ヨレヨレです(笑)洗濯に何回耐えられるか!?という感じですが、まあ、急場凌ぎで。
yu_mama
2013年12月27日 18:16
三毛猫さま
ドラッグストアって、どちらのですか?教えて頂けますか? 昨日、サンがつくドラッグと、マツキヨとつく(って、ほぼ言ってるし)ところを探したのですが、置いていなかったんです。高齢者の少ない地域だからなのか、他のドラッグストアならあるのかしら?
父に対しては、家族も親戚も誰も、もの申す人はいません。だから、あの医者や看護師は、よくぞ言ってくれました~っていう感じでした。身内は、み~んな気を遣って言葉を選んで、できるなら喋らないようにして接していますからね。それでも地雷はどこに転がっているかわからないんです。
yu_mama
2013年12月27日 18:23
ミルテさま
ありがとうございます。Hug!Hug! 頂きました~

妹も交代してくれると言っていますし、有償のヘルパーさんを使うという手段もありますし、家族だけで抱え込まない方法を考えてみます。

発声の記事を読ませて頂いて、コメントを書いている途中で出かけることになって、そのままになっていました。また訪問しますね。
yu_mama
2013年12月27日 18:27
Selfishさま
あっちにもこっちにも「怒鳴る父」っていらっしゃいますのね。そういう年代なのかしら。我が父だけではないということは、まあ知ってはいましたけど、なんなのかしらね?家族ってなに? って考えてしまいます。あれだけ怒鳴って私に当たっていた父が、家族が面倒をみるのは当たり前だろう!って言うのが不思議。いずれ面倒を見てもらおうっていうことだったら、もう少し可愛がっていれば良かったんじゃない?なんて。
かぶり式を前開きにしよう!って、えいや!って切っちゃったものの、端の始末がとても面倒で後悔しましたよ。(笑)
yu_mama
2013年12月27日 18:30
gさま
コメントをありがとうございます。
なるほど、寒さですね。前開きだとスースーするのかもしれないですね。しかも私の作ったものは、前立てがきちんとできていませんからね。父もそういうことを言いたかったのかもしれませんが、いきなり怒鳴って理屈がわからん!と言ってしまっては、相手に何も真意が伝わりません。怒鳴らないで普通に言えないものかと思ってしまいますが、この年齢まで怒鳴ることで自分の主張を通して来た人なので、変わるはずないですね。
参考になるご意見を頂きまして、ありがとうございました。
2013年12月27日 22:08
ドラックストア―って日用品と薬を売っている薬屋さんです。
こちらでは、薬のコダマとか、アメリカンどっらっくとか・・・
父が入院したころ(7年前頃かな)には、売っている店を探すのが大変でしたが
総合病院の売店だと確実に売っていますよ。始めは、病院で買ったのかもしれません。今は結構売っている所が増えてきているようです。探すのが面倒で、お店に入ると、店員さんに聞いて、ないとどこで売っていますかなどとちゃっかり聞いたような?
yu-mamaさんは優しいですね。
私の場合も、最初は、子どもは親の面倒を見るべきだと、言葉には出しませんでしたが・・・・思っていたようで・・・・悲鳴をあげてしまいました。
yu-mamaさんのお父様がどのくらいの認定になるのかわかりませんが、疲れてしまうと、優しくなれなくなってしまいます。
介護保険を払ってきたのだから、そろそろ使ってもいいんじゃない。。。と言ったのが始まりのようでいたが・・・
今では、結構お世話になっています。昼食は弁当・ディーサービス・掃除・夕食の援助など・・・以前に比べて大分楽になり、父母ともに喜んでいます。子供としても、安否確認になるので、助かっています。そのうち、父の着替えも頼もうかなどと考えているようです。
yu_mama
2013年12月27日 22:54
^_^三毛猫さま
ありがとうございます。
薬のコダマも、アメリカンドラッグ?アメリカンファーマシーかしら?も、家の近くにはないですわ。だけど、病院にありますねー。そうそう、すっかり忘れておりました。確かに、病院の売店で見たことありましたっけ。早速行ってみます。

実は、今日の昼間に着替えに行ったのですが、夕方、私が熱を出してしまいまして、妹が代わりに行ってくれました。急遽、埼玉から東京の実家まで。片道一時間半以上です。
姉妹二人きりですから、こういう時に困りますね。
父は、介護認定なんか受けない❗️と、ずっと拒否してきましたから、こういういざという時に困るのです。妹とは、社協から有償のヘルパーさんに来てもらうことを相談していますが、いずれにしても年末年始はダメですね。お弁当も明日から5日までありませんから、そこも考えないと。
ホントに、こんな時期に骨折なんてしてくれちゃうから。
介護認定の調査が終わったところなので、認定が下りるのは、来月半ばだと思います。認知症もありませんし、社会にも出ているとなると、なかなか認定が難しいところです。
怒鳴る元気さもありますしね。(^^;;

ベッドの中で、スマホからのコメ返でした。
2013年12月28日 22:26
よく判ります。優秀で誇り高い父上、お母様も大変だったと思われますね。
誰の親でもない、貴女の父上です。世間にはこんなことが溢れています。
私の場合は逆で、母親と息子ですが似たようなものです。頑張って下さい。
yu_mama
2013年12月28日 23:10
有縁千里さま
プライドの高い人が不自由になると、ホント大変ですねえ。
そうですね。自分だけではないと言い聞かせております。経済的な不安がないことだけでもありがたいと思っております。
有縁千里さんは、もっと遠いところをお通いになっていらっしゃるのですものね。
お互いに、お疲れ様です。

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