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<<   作成日時 : 2017/08/19 00:30   >>

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本当は8月13日に大きなステージに出るはずだった。そのことは、もう1年以上も前から決まっていた。私たちはバッハのモテットで4月に団独自の定期演奏会を開き、2月ごろからはヴェルディのレクイエムも並行して練習するはずだった。

 それが 今年1月に急に団から指揮者が去ったことで、レクイエム演奏への参加は取り消された。3つの合唱団合同のステージになる予定だった演奏会で、私は他団に所属する妹と一緒に歌えるはずだったが、うちの団が抜けることになり、共演の夢は泡と消えた。

 本番の日

 8月13日

 私はビデオカメラのファインダー越しに妹の出ている演奏会を観ていた。

 



 夫が、私の所属する合唱団のDVDを担当するようになって6年ほどになるが、指揮者である先生に気に入られ、先生の独自の演奏会でもDVDを頼まれていた。

 今回のヴェルディも、前々から依頼されていたことだった。私が所属する団を先生は去ったものの、私の夫へのDVD依頼はそのまま繋がった。

 「旦那様にビデオを頼みたい。yu_mamaさんも、歌いなさいよ」
と、先生はおっしゃってくださったが、団に所属している私が仲間を裏切るようなことはできない。

 12日の昼前に夫が帰国した。その夜、機材を担いでリハーサル会場に行った。私もカメラに慣れるためにリハを撮影した。

 楽譜は去年のうちにすでに購入してあり、久しぶりに開いてみれば、言葉の意味などが調べて書き込まれてあった。自分で予習をしていたことすら忘れるほど、長いこと本棚に立てたままだった。その楽譜を開き、合唱とソロの曲を覚え、楽器のソロをチェックした。

 13日は、朝から芸術劇場に向かった。

 ゲネプロも撮影した。私のカメラ位置は上手側の中2階最前列。斜め上から下手方向を映すことになる。ソプラノがよく見える位置だ。妹が真ん中あたりにいる。あそこに自分もいるはずだったのに、という思いを抱えながらも、今は自分の与えられたことをやるだけだ!と、楽譜を頭に叩き込む。

 途中バンダの撮影がある。ファンファーレのラッパをトランペット4本が、両サイドから掛け合いで演奏する。ゲネプロで決めていた位置が、本番前になって変更になった。その位置は、4階席の最上段だ。そこを狙えるのは私のカメラしかない。

 Dies iraeの曲で激しく合唱とオケが鳴り響いた後に出てくるバンダの姿を、なんとしてでもカメラに収めなければならない。

 そのタイミングを楽譜を見ながら覚える。何度もカメラを動かす練習を繰り返した。ステージを向いていたカメラを160度くらい回転させながら、斜め上方向に焦点を合わせなければならない。緊張が増す。



 ゲネから本番までの休憩時間、配られたお弁当を持ちながら、あちこち座れる場所を探したが見つからず、立ち食いになった。

 思えば、ゲネプロも立ちっぱなしでお昼も立ち通し、本番はもちろん立ったままでの撮影だ。

 足が相当疲れている。むくみでパンパンになっているが、そんなこと言っていられない。

 開場は開演の1時間前だった。ホールにお客様が入り始めたら、邪魔にならないよう カメラ前にスタンバイする。

 予備ベルが鳴り、いよいよ本番が始まる。

 休憩なしのプログラムは100分を予想されている。足よ!ガンバレ!!



 合唱団員がステージに上がり椅子に座る。
 
前プロ演奏後、いよいよ ソリスト、指揮者が登壇し、レクイエムが始まる。

合唱が、静寂を壊さぬようなsotto voceで 「requiem」と歌い始める。男声、女声、混声と、「requiem」と繋ぐ。
dona eis Domine へと静かに音を紡ぐ。

 pppであくまでも静かに et lux perpetua とハーモニーをdolcissimoで創るところ、カメラ越しにもゾクッとした。

 こういう静かなところを全員が気持ちを合わせて歌う緊張感が好きだ。(あ、私の好みは聞かれてないか )

 2曲めの Dies irae は、そのタイトル「怒り」を表すにふさわしい激しいffで金管、バス・ドラムのリズムから始まり、誰もが知っている有名なメロディーを合唱が吠えるように歌う。まるで、声が楽器になったかのような魂の叫びを感じて体が震える。

 不覚にも、私はそんなところで涙が浮かんでしまう。

 あそこで私も歌っていたかもしれないと思うと、本当に切なくなる。

 カメラ越しに妹が精一杯歌っている様子を見つめる。

 涙でぼやけてくるのを振り払い、カメラ操作に集中する。


 最後の音が鳴り終わり、残響が天へと昇った気がした。


 拍手が鳴り止まない。

 アンコールも終わり、

 すべてが 終わった。


 淡々と機材を片付ける。大きなスーツケースと大きなリュックに、カメラ5台、三脚を収め、さらに大型の三脚は肩から提げて、来た道を帰るだけだ。

 華やかな舞台にいた人たちは、意気揚々と打ち上げ会場に向かう。
 私たちは、疲れた体で重い荷物を転がしながら、裏口から外に出た。

 駅方向に歩いて行ったら、たまたま、合唱の知り合いに会った。

 「打ち上げ、行くでしょ?」
と誘われた。

歌った人たちの達成感、充足感、緊張からの開放感でいっぱいの打ち上げ会場にいても辛くなるだけだ。

 「いえ、明日には中国に戻りますので」
と、ちょっとだけ嘘をついた。(ほんとは、明後日だけど)と、心の中で詫びながら、丁寧にお断りした。

 「え?そっか〜。これから中国に帰るのか〜」

 はい!? あ、スーツケース持ってるしね。確かに。。。

 じゃ、そういうことにしておこうか。 
 

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
音楽に関したことは何も知りませんが
この時のyu_mamaさんの気持ちを想像しながら読ませていただいていたら
涙が流れていました。(笑)
頑張りましたね。お疲れ様でした。

2017/08/20 09:27
麦さま
気持ちに寄り添っていただきまして、ありがとうございます。
なんとも複雑な思いでした。
なんでこうなっちゃったんだろう?という気持ちが強かったかな〜。

「頑張りましたね」なんて言われると、私も泣けてきます。
ありがとうございます。
yu_mama
2017/08/20 23:34

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